東京カメラ部2015写真展エプソントークショーイベント「写真が変わる!レタッチ&プリントセミナー」小澤貴也

2015年5月27日(水)~6月14日(日)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部 2015写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは多くの人気講師をお招きして、スライドを見ながらのトークショーが行われました。

6月13日(土)に行われたエプソンのトークショーではエプソン販売(株)のプロフェッショナル・アート・プリンター小澤貴也さんをお招きし、「写真が変わる!レタッチ&プリントセミナー」というタイトルで、実際のプリントの比較や画面でのレタッチ操作を交えながらお話いただきました。

まず始めに、小澤さんからプリントの世界についてお話をしていただきました。
「自宅に写真を飾る『インテリアフォト』がもっとも身近なプリントです。和紙を使用したりアクリルのフレームに入れたり、ひと工夫して飾る方法も人気があります。次に『ポートフォリオ』。プリントをポートフォリオボックスに入れたりブックにしたりして作品を作っていく方法です。コンテストにもインクジェットプリンタを使って自分自身で印刷した写真を応募する方が増えているといいます。次に『展覧会』、これはグループ展や個展のためにプリントする場合です。最近ではweb上で作品を発表して作家デビューする方が増えてきているといいますが、一方でプリントで写真の可能性を見せていく作家さんもいます。 私たちがこれまでにサポートさせていただいた中でも、鑑賞体験のあり方をくつがえすようなコラージュ作品や、幅9mの巨大プリントといった作品を生み出す作家さんもいらっしゃいました。次に『作品を売る』ことについてです。数年前、有名な作家の写真で、インクジェットを使ってプリントされたものが銀塩と同じ価格で落札されました。このように、インクジェットか銀塩かというのは関係がなくなってきているので、インクジェットでも安心して作品を作ることができます。また、自分の写真を販売することができるSNSサービスもあります。自分がwebサイトにアップロードした写真をとても気軽に売ることができます。」
webとプリントを併せてやっていくことでプロ・アマチュアの境なく、誰でもプロとして作品を発表できる時代になっています。「プリントのクオリティを上げて、よりいい作品を作っていただきたい」と小澤さんは言います。

東京カメラ部2015写真展エプソントークショーイベント「写真が変わる!レタッチ&プリントセミナー」小澤貴也

次に、小澤さんから『知っておきたいプリントの知識』というタイトルでプリントについての基礎的なお話がありました。
「jpegで写真を撮っている方はカメラ側でsRGBかAdobe RGBというのを決めています。RAWで撮っている方はRAW現像の際にこれらを選べるようになっています。Adobe RGBの方がより広い色を表現でき、sRGBの方が少し色の範囲が狭いです。私たちが普段使っているスマホやパソコンのモニターは一般的にsRGBを表現できるように作られているので、Adobe RGBで撮影した写真をスマホやパソコンで見ると彩度が下がって見えてしまいます。Adobe RGBに対応したモニターを持っていないと正しい色で見ることができないんです。なので、web上に写真をアップする場合はsRGBにしてからアップするといいと思います。こういったことから、モニターで見る色とプリントで見る色が違う、と思っている方もいるかもしれませんが、Adobe RGBで撮影した場合はAdobe RGBに対応したモニターが必要、ということを覚えておいて欲しいと思います」

→色空間(カラースペース)について、詳しくはこちらをご覧ください

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「続いてプリントサイズとカメラの画素数についてのお話です。例えばA3サイズにプリントするのであれば、1,800万画素あると十分な画質でのプリントが期待でき、最低でも800万画素あれば耐えうるクオリティで出力できます。最近のデジタルカメラは1,000万画素を超えるものがほとんどですので、サイズに関してはあまり心配がいらなくなってきたのではと思います。また、RAWで撮影している方は、拡大現像することで大きいサイズで出力ができます」

東京カメラ部2015写真展エプソントークショーイベント「写真が変わる!レタッチ&プリントセミナー」小澤貴也

「インクジェットプリンタはインクを紙に吹き付けて印刷するのですが、『染料インク』と『顔料インク』という二つのインクの種類がプリンタを選ぶ際の一つの決め手となります。『染料インク』は紙にインクが染み込み、『顔料インク』は紙の表面にインクが乗ります。『染料』の特徴は彩度が出しやすいということ。また、紙の中にインクが染み込むので紙の光沢感をそのまま活かすことができます。光沢のある写真を作りたい方は『染料』を使用した方がいいと思います。ただしデメリットもあり、『染料』でプリントした写真はプリントアウトした直後と一日後とでは色が違います。半日から一日置いてやっと正しい色が出ます。Photoshopなどで調整をしたときは時間を置かないと正しい色かどうかが判断できないので注意が必要です。もう一つは『顔料』ですが、紙の上にインクを置くので色のにじみが少ないです。そのため、グラデーションの表現やシャドウ部の階調表現に強いんです。プロの方は『顔料』を使っている方が多いですね。また、家で見るプリントと展示するギャラリーで見るプリントの色が違うという方がいますが、『染料』よりも『顔料』の方が光の影響を受けにくいんです。ですので、展示会の写真をこだわりたい方には『顔料』の方がおすすめです」

→染料インク顔料インクの違いについて、詳しくはこちらをご覧ください
→関連情報:あなたのスタイルは?プリンターの選び方 | 学ぶ | エプソンのフォトポータル | エプソン

東京カメラ部2015写真展エプソントークショーイベント「写真が変わる!レタッチ&プリントセミナー」小澤貴也

現代の写真表現においては、用紙選択とレタッチを重視する作家も増えてきており、他の作家との差をつける大事な要素となっているといいます。
「この写真は両方とも光沢用紙にプリントした写真ですが、右と左ではレタッチの方法が違います。皆さんから見て左の写真は撮って出しです。右はレタッチをしていて、画面下部を少し暗くして人物をほんの少しだけ明るくしています。そうするとフォーカスが人物に合い、この写真の主役になります。写真の意図が明確になり見る人に感動が伝わりやすくなります」

東京カメラ部2015写真展エプソントークショーイベント「写真が変わる!レタッチ&プリントセミナー」小澤貴也

「こちらの写真もレタッチ違いです。煙を主人公と思ってレタッチをするのと電車の重量感を主人公と思ってレタッチをするのでは全く違う画になりますし、選ぶ紙も変わってきます。今はカメラの性能がよく何もしなくても写真がキレイに撮れる時代です。ではどこで差をつけるかというと『この写真でここを見せたい』『これを伝えたい』という撮り手の思いをレタッチや紙で表現していくことで、より良い作品を作っていくことができます」

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「こちらはモノクロの写真ですが用紙違いです。皆さんから見て右が光沢紙、左がマット紙です。好みにもよるのですが、撮った方から『乾いた空気を出したい』という要望があったので最終的にマット系の紙にプリントしました。実は右と左で用紙の白の色も違うんです。紙の白というのは表現の上でとても重要になってきます」

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「こちらもプリントしている用紙が違うのですが、右と左でだいぶ印象が違うと思います。『乾いた空気』を感じるのは左側ですよね。これは彩度を落としながら硬めにレタッチをして、用紙の特性を考慮しながら仕上げています。コンテストや展示でもこうしたちょっとしたこだわりが差になって現れます。紙やレタッチにこだわりを持っていただければと思っています」

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「インクジェットでプリントできる用紙の種類というのはとても沢山あります。『RCペーパー』『アート紙』『マット紙』『バライタ紙』『和紙』など様々です。『RCペーパー』とは一般的な写真用紙のことで、安価で色が出るので使いやすい用紙です。同じ『マット紙』でも値段が高い紙と安い紙に分かれます。高いものは『アート紙』と呼ばれる中性紙で、長期保存に向きます。『バライタ紙』というのは銀塩プリントをする人にはお馴染みの紙ですね」

→関連情報:用紙選びのあれこれ | フォトグラファーのカラリオ術 | 学ぶ | エプソンのフォトポータル | エプソン

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「人間の目はホワイトバランスを調整するので、黄色っぽい紙を使っても青っぽい紙を使っても、『白』と認識してくれます。実はインクジェットには『白』のインクが存在しないため、写真の中の『白』というのは紙の『白』なんです。そうすると『白』を表現するために紙を選ぶというのはとても重要なことになってきます。例えばこの右と左のプリントでは、紙の色が違います。まず時間帯が違って見えてきますし、テーマが『哀愁』だった場合、右の方がより雰囲気が出ていますよね。左はどちらかというと自分が見たまま、感じたままを表しています。紙の『白』が変わるだけで、見る人への伝わり方や印象が変わります。このように、紙の『白』を意識するだけで写真の表現の幅が広がります」

「家族の写真やポートレートのような暖かみを出したい場合は、黄色い紙を使うと表現がしやすくなります。青い紙を使うとコントラストが出やすくなり、冷たさが表現しやすくなります。以前、冬の写真を表現するのに黄色い紙を使っている方が『寒そうな写真にならない』と何度もレタッチを繰り返しながら悩んでいたのですが、最終的にプリントする用紙だけ変えたところ、表現したい写真になったとおっしゃっていました。自分の写真は暖かいのか冷たいのか、コントラストが高いのか柔らかいのかを考えて、表現したい方向で用紙を選んでいただければと思います」

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「同じように黒がどれだけ締まるかというのも重要です。風景写真でコントラストをしっかり出したいというのであれば光沢用紙の方が向いていますし、マット紙や和紙は黒が優しくなるので柔らかい印象にしたい場合は最適です。風景写真でパキッとさせたい場合に和紙を使っていては表現できませんので、紙を変えていただいた方がいいですね」

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「紙の選択は非常に大事だということがわかっていただけたと思います。例えばこちらの写真も、右側は雨が上がった直後の雰囲気までちゃんと出ています」

東京カメラ部2015写真展エプソントークショーイベント「写真が変わる!レタッチ&プリントセミナー」小澤貴也

「銀色の用紙もあります。不思議な用紙ですが写真としてちゃんと表現ができていて面白いですね」

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「次はレタッチのお話なのですが、この二枚の写真の違いがわかりますか?皆さんから見て左側の方が良いプリントで、右側が少し問題のあるプリントです。空の部分を見ていただくとわかると思うのですが、左は写真が長方形に見えます。右は空が白飛びしてしまっていて、紙の白と空の境目がわからないですね。これはレタッチでコントロールできます。よく『レタッチはどこまでやっていいのかわからない』というお声を聞くのですが、客観的な記録写真を撮る方はあまり手を入れない場合が多いです。それに対して自分の感動や感情、テーマを表現したいという方は手を入れる場合が多いです。どちらも自分の好みになるのでどちらでも正解だと思います」

「プロの世界だと細かくレタッチをする人もいます。ただし、いい写真というのが前提にあり、レタッチはあくまでもプラスアルファです。こだわろうと思うとどこまでもできますが、足し算ではなく引き算で考えられるようになると、レタッチはよりよいものになっていくと思います」

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「一般的な実際のレタッチの流れですが、全体の明るさとコントラストをまず調整します。次に色味や彩度の調整、次に部分的な補正をして、最後にシャープネス調整などの仕上げをします。今までわたしたちがレタッチをしてきたなかで、8割は明るさについての補正です。カメラで適正露出で撮影することが大切なように、プリントするときに明るさをちゃんとコントロールできれば、キレイなプリントに仕上げることができます」

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「わたしたちが作業をするときは最初にRAW現像をして、RAW現像ではできないことを細かくPhotoshopで調整をしていきます。全体的な補正はRAW現像時に行い、部分補正はPhotoshopで行うことが多いです。RAW現像ソフトも性能が上がってきているのであまり困ることはないのですが、いくつかコツをお伝えします。上手い人と下手な人の差は、シャドウ側とハイライト側のコントロールに出ます。中間調はカメラの性能でキレイに出るので、あまり差はないんです。画面のように、まず『露光量』と『コントラスト』ですが、これは好みで自分の思うようにざっと決めてしまいましょう」

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「次に『白レベル』と『黒レベル』を決めます。これはプリントアウトしたときにどこまで白を飛ばすか、どこまで黒をつぶすかということです。Windowsの場合はAltキー、Macの場合はoptionキーを押しながらスライダーを動かすと、プリントした際に黒潰れする箇所や、白飛びする箇所がわかりやすく見えます。これで黒と白の表情をちゃんと決めるという作業をしておきます。『シャドウ』と『ハイライト』は微調整になりますので、これで細かい階調を決めていきます」

「そのあとはPhotoshopで部分的な補正をしていきます。例えば彩度を調整したり、部分的に覆い焼きをして完成させています。

東京カメラ部2015写真展エプソントークショーイベント「写真が変わる!レタッチ&プリントセミナー」小澤貴也

「作家のこだわりが強い場合、もう少し細かく調整する場合もあります。例えばこの写真です。左が元の写真で、真ん中の写真を見ると船の色が変わっていますね。右の写真では空の色も変えて、画面下の方を暗く落とし、奥行きを表現するために建物を調整しています」

「せっかくレタッチをして用紙を選んでも、プリント設定が間違っていると思い通りのプリントはできません。レタッチした画像のプリント方法には、大きく分けて2種類の方法があります。一つはプリンタの特性を最大限使って出力する方法。もう一つは、モニターと色を合わせて出力する方法です。性能のいいモニターを持っている方はモニターに色を合わせて、持っていない方はプリンタの特性を最大限利用した方法でプリントするのがいいでしょう」

→エプソンプリンターでの設定方法について、詳しくはこちらをご覧ください

トークイベントの最後には10名様限定のポートフォリオボックス争奪ジャンケン大会がおこなわれました。

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お話が終わったあとの会場には、プリンター「エプソンプロセレクションSC-PX5VⅡ」、「エプソンカラリオEP-977A3」と、プリント見本が置かれており、皆さん手にとって表現の違いを見比べていました。レタッチとプリントについて、基本事項から細かいレタッチの方法まで幅広くお話をしていただきました。RAW現像ソフトやPhotoshopなどの細かい操作方法やコツも、実際の画面を通して教えていただくことで皆さんの理解も深まったと思います。自分の意図や感情を伝えるために必要不可欠なレタッチと紙の選択。正しく理解し選択することで写真表現の幅を広げていきたいですね。小澤さん、ありがとうございました。

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