北海道美瑛 北海道美瑛町長 浜田哲氏 × 東京カメラ部運営「景観は努力して守るもの」

2018年4月26日(木)~5月5日(土)、東京・渋谷ヒカリエにて「東京カメラ部2018写真展」が開催されました。開催期間中のイベントステージでは、人気フォトグラファー、写真業界関係者、歴代東京カメラ部10選などをお招きして、さまざまなテーマでトークショーが行われました。

5月4日(金)に行われた北海道 美瑛のトークステージでは、北海道美瑛町長 浜田哲氏にご登壇いただき、「景観は努力して守るもの」というテーマでお話しいただきました。

北海道美瑛 北海道美瑛町長 浜田哲氏 × 東京カメラ部運営「景観は努力して守るもの」

東京カメラ部運営 塚崎(司会)「皆さま本トークステージにお越しいただきありがとうございます。本日は北海道・美瑛町の浜田町長をお招きして、『景観は努力して守るもの』というテーマでお話ししていただきます。美瑛町は『前田真三先生の写真で一躍有名になった写真の”聖地”と呼ばれるような場所』です。前田先生といえば風景写真の大家です。そして、風景写真といえば『自然』を撮影するものだとわたしは考えていました。しかし、東京カメラ部を運営する中や、浜田町長とお話をしている中で、日本の場合は、風景写真は自然とそこにあるものそのままを撮っているのではなく、人が作りあげたものを撮影している場合がほとんどであるということを学びました。つまり、正しくは”風景”ではなくて”景観”写真だったのです。日本の多くの風景は、手付かずの自然として、始めからそこにあるわけではなく、人の営みがあって、苦労があって、そこに住んでいる方が維持・管理してくれているから我々が写真に撮れている。今日は、皆さんともその事実を共有したいと思い、この場を設けました。」

塚崎「浜田町長、美瑛町をご存知でない方もいらっしゃるかもしれませんのでご紹介をいただけますか?」

浜田「皆さま本日はよろしくお願いいたします。美瑛町長の浜田哲と申します。わたしは元々小さな会社の役員をしておりましたが、ふとしたことから選挙に出て当選し、町長になってもう20年になります」

北海道美瑛 北海道美瑛町長 浜田哲氏 × 東京カメラ部運営「景観は努力して守るもの」

浜田「美瑛町は富良野市と旭川市のほぼ中間にあり、面積は東京23区とほぼ同じ大きさです。人口は約1万人で、牛を入れると10万人くらいになります(笑)十勝岳の繰り返される噴火が生み出した波状丘陵という特徴的な地形を持っており、そこで行う農業が産業の柱となっています」

北海道美瑛 北海道美瑛町長 浜田哲氏 × 東京カメラ部運営「景観は努力して守るもの」

浜田「我々はそれまでは美瑛の景色が写真の材料になるとは思っていなかったのですが、写真家の前田真三先生が写真集に残してくれました。つまり、美瑛には、写真家の方に美しい景観を発見していただいたという歴史、感謝の気持ちがあります。そのため、写真を撮る方々とのお付き合いは大切にしていきたいんです。一方で、美瑛町は農業の町です。その町で、景観を残すことをまちづくりの指針とすることは政治家として簡単なことではありません。美しいと評価いただく美瑛町の景観のポイントは丘です。丘は、土地が斜めになっているということですから、日照問題が発生しますし、トラクターがひっくり返って事故になってしまうこともあります。つまり、農業作業効率を高めようと思うならば、工事をして丘を削って少しでも平らにしたくなるのです。また、防風林がもう邪魔になってしまったので農耕機の作業効率を上げるために切りたいという意見も出ます。しかし、景観を残すためにそういうことはしたくない。だから、美瑛の農作物の付加価値を高めることで生産性を高めていこう、と農家の人を説得しながらなんとかやってきています」

塚崎「我々が撮っている景観は、農家や住民の方々がご自身の生活を便利にすることよりも景観を守ることを優先してくださることで実現しているんですよね。そんな苦労を知ってか知らずか、写真を撮るわたしたちの中に、撮影時のマナーを守らないことで、こうして協力をしてくださっている農家や住民の方々に多大なるご迷惑をおかけしてしまっている人たちがいるのです。わたしが問題視するのも理解していただけると思います。」

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浜田「美瑛は農業によって街が起こってきた歴史があります。寒暖の差があったり水が豊富だったり、火山の噴火による土地は水はけもいい。土地の使い方によっては本当に質の良いものができるんです。だから美しい景観と農業、そして観光を結び、来てくださる方に『美瑛の作物を食べてみたいね』と思ってほしい。そこで重要な役割を果たしていただきたいのが、写真を撮る方々なんです。美瑛の風景は”パッチワークの風景”といって、例えば畑を4つに区切ると、毎年できる作物が変わるんです。毎年毎年変わるので一年として同じ風景はありません。そういった風景を残していただいたり、地域の美しさを発見して撮影していただいたり、さらにはそうした写真を発表して、より多くの方に美瑛の美しさを伝えていただければと思っています」

塚崎「皆様が撮影された美瑛の景観写真をSNSなどに積極的に投稿して、一人でも多くの方に美瑛の素晴らしさをお伝えいただきたいです」

北海道美瑛 北海道美瑛町長 浜田哲氏 × 東京カメラ部運営「景観は努力して守るもの」 北海道美瑛 北海道美瑛町長 浜田哲氏 × 東京カメラ部運営「景観は努力して守るもの」

塚崎「最近も写真を撮る人のために、電柱地中化や修景事業などいろいろな取り組みをされているんですよね?」

浜田「この道路の一番上に展望台があるのですが、そこから見えるところで農家の方が生活しているので、写真を撮るとどうしても景色の中に電柱が入ってしまうんです。そこでその電柱を埋めさせてくれないかとお話をしたんです。当時は莫大なお金がかかりましたね」

塚崎「美瑛では車窓からいい風景がたくさん撮れたり、車から降りたらすぐに絶景が撮れるとよくいわれるのですが、それは偶然じゃないんです。町の努力で維持管理されているからいい景色が比較的簡単にたくさん撮れるんですよね」

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浜田「靴についた土から農作物に病気が広がってしまうため、畑に入って欲しくない農家の方々もいます。逆に入ってもいいとおっしゃってくれる方もいるのですが、我々はやはりマナーを守ってこそだと思っています。今までは『立入禁止』と書かれた看板を立てていたのですが、景観上あまりいいものではありません。なので写真を撮る場所と入ってはいけない場所の景観を共用しようと思い、白樺を打ち付けました。比較的景観に馴染む柵を整備したということです」

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塚崎「この白樺をよく見ると、カメラを置けるように柱の上面が平らになっているんです。必ずしも全員が三脚を持っているわけではないですよね。でもカメラをこの上に置いて撮れば、誰でも素晴らしい写真が撮れるんです」

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浜田「ここに写っている屋根にも実は予算を使っているんです。この建物は農家の方の倉庫なのですが、実はもう使っていないんですね。でもこの赤い屋根は前田真三先生が写真に撮ってくれた街づくりの写真の原点ですから、その原点を守ろう、財産を残そうということで予算を使っています」

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塚崎「この素晴らしい景観を次の世代に残すためにも、本来なら写真を撮る人間が考えないといけない問題ですよね。そこで、美瑛町と我々東京カメラ部で『美瑛ルール』という取り組みを一緒に行っています」

浜田「まちづくりをしていく中で課題が生まれてくるということはとても大切なことで、それを解決することで街が成長して次のステップにいける。美瑛の中でいかに安心して写真を撮る環境を作れるのかという問題があります。美瑛町にはプロの写真家の方々もたくさんいて相談できますし、農家の方々にも協力いただいてルールを作ろうと動き始めました」

北海道美瑛 北海道美瑛町長 浜田哲氏 × 東京カメラ部運営「景観は努力して守るもの」

塚崎「また、東京カメラ部が一緒に運営させていただいているフェイスブックページで、写真愛好家の方々からご意見を募集しています。美瑛町の方々は、一部の方の意見だけではなく、撮りに来てくださっている方々の声も聞いて、よりよい解決策を模索されようとしていますので、ぜひこちらにご意見をいただければと思います」

浜田「美瑛に写真を撮りに来る方々がたくさんいてくださるということは、町民にとっては誇りだと思っています。魅力あるまちづくりができている証でもありますから。わたしたちは、撮影者の方々と争いたいのではありません。色々な意見を交換し合い、みんなが喜べる、次のステップに行ければと考えて、行動を始めています」

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塚崎「また美瑛町は”国際フォーラム”という形でも写真文化の振興を図ろうとしているんですよね」

浜田「今まで写真というものはお金も手間もかかる媒体でしたが、今ではものすごいツールに発展してきました。これを地域作りに生かすという役割を美瑛が持ってもいいのではないかと思っています。皆さんが美瑛に訪れたときに、芸術的というよりはもっと庶民的に写真を楽しめるようにしたい。そこでヨーロッパや上海の写真協会の方と提携して、子どもたちのための写真ツアーを行うなど様々な取り組みをしています。今年は11月に開催される予定です」

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塚崎「『日本で最も美しい村』連合で街の景観を守ったり、美しさを発信していく取り組みもされています。美瑛町がリーダーなんですよね」

浜田「20年前に町長に就任した際、美瑛の美しい景観をまちづくりの経営戦略の一つの資源として使おうと思いました。そのための情報を探しているときにカルビーの松尾元社長と出会い、ヨーロッパに『世界で最も美しい村』連合があると教えていただいたんです。日本は日本の基準を作ってやってみようと動き出し、今年で11年目になります」

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塚崎「これまで様々な取り組みを教えていただきありがとうございました。最後に何か一言お願いいたします」

浜田「美瑛町では大きな税金を国からもいただいています。その予算でまちづくりをして住民の方に幸せに暮らして欲しいと思っているのですが、同時に”写真”を皆さんと一緒に育てていく役割を担いたいと思っています。我々の持っている資源を活用し、『美瑛に行ってみたい』とか『美瑛には素晴らしいものがあるね』と思っていただけるような活動をしていきたい。そのために写真というテーマに腹を据えてずっと向き合っていきたいと思っています。本日はありがとうございました」

<関連リンク>
Facebookページ「写真で旅する~北海道美瑛」

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